経堂ボウル
こんばんは。
この頃は、夕方5時にもなると、すっかり暗くなってしまいますね。
僕は、先日、あまりの暗さに目の前が何も見えず、車にひかれてしまいました。
幸い、当たり所が良かったみたいで、全然ケガはなかったのですが、
運転していたおじさんは、大変心配してくれて、
「病院できちっと検査を受けた方がいい。」と言ってくれました。「お金は僕が出すから」とも。
でも、本当にケガはないし、頭を打ったわけでもなかったので、大丈夫です!と断っても、
「いや、検査するべきだよ。」としつこく食い下がってきました。
何度も何度も断って、1万回くらい断ったあたりで、ようやくおじさんも諦めてくれました。
「わかりました。じゃあせめてお詫びのしるしとして、うちでご飯を食べて行ってください。」
おじさんの家は、そこから車で1時間ほどかかった、山の中にありました。
まわりに他の建物などなく、ぽつんとその家だけが立っています。
いや、ぽつんというには、その家はあまりに立派なものでした。
テレビでしか見たことのないような、西洋のお城のようなたたずまいで、
まわりも暗かったので、ほとんど幽霊屋敷のようです。
いかにもお化けの出そうなその雰囲気に圧倒されつつも、おじさんの後を着いて歩くこと10分、
広い庭を抜け、やっと玄関に辿り着きました。
「ギギギギギギ・・・」
いかにも重たそうな玄関が開き、中に入ると、そこには、たくさんの人であふれかえっていました。
みんなそれぞれ手にはグラスを持ち、おしゃべりをしています。
どうやら立食パーティーが行われているようです。
奥には、生バンドの演奏もあって、うるさすぎず、静かすぎずの、なんだか知らない
高級な音楽を鳴らしていて、そこのあたりでは、曲に合わせて踊っている人たちもいます。
「何かのパーティーなんですか?」
僕がそう尋ねると、おじさんは何も答えずに、「ニヤッ」と笑いました。
笑顔の隙間から金歯が、きらりと光り、僕は突然、物凄い恐怖に襲われました。
「毎晩こうだよ。」
おじさんが口を開きました。
その際にもやはり金歯が輝き、また僕は、ぶるっ、と身震いするのでした。
それから30分くらいたつ頃には、僕も徐々に場に慣れてきて、
いろんな人とおしゃべりをするようになりました。
話してみると、みな、高級そうなパーティーの雰囲気とは裏腹に、
フリーターや売れないバンドマン、アイドルの卵や普通のOLなど、
いわゆる庶民ばかりです。
「僕みたいのは場違いではないのか」と思っていたので、なんだか安心です。
ここは、料理も最高です。
バイキング形式になっていて、エビだの肉だのスープだの、
普段まったく目にすることのない、料理名もわからないものばかりですが、
そのどれを取ってもおいしいのでした。
「ケガもなかったし、車にひかれるのも案外悪くないなぁ。」
「そういえば、おじさんはどこに行ったのだろう。」
ずいぶん前からおじさんを見ていません。
長居してしまってもいけないので、そろそろお礼を言っておいとましようと思ったのですが、
どこにも姿がありません。
みんなに聞いてまわっても、わからないようです。
ここまでもてなしてもらって、あいさつもなしに帰るのはさすがに気が引けます。
ちょっと探してみようとフロアを出ると、赤絨毯の長ーい廊下が続き、
その両側にたくさんの扉がありました。
その数の多さにうんざりしましたが、ここは全部の部屋を探してみようと、
ひとつひとつ扉を開けていきました。
一つ目の扉を開けると、そこは書斎でした。
その本の数も大変なものでしたが、よく見ると、全てボウリングに関するものばかりです。
「ボウリングが好きなのかな。」
次の扉を開けると、そこは、DVDがお店ほど並ぶシアタールームでした。
見ると、やはり全てボウリングに関するものばかりです。
次の部屋は、さまざまな筋トレ器具の揃った、トレーニングルームでした。
その器具を見ると、どうやら全てボウリングに必要な筋肉を鍛えるもののようです。
「ずいぶん熱心なんだな。」
そう思い、その後もおじさんを探して、部屋を見てまわりましたが、
どこにもおじさんの姿はなく、あるのはボウリングに関するアイテムのみです。
おじさんの居場所はわかりませんが、ボウリングに相当熱を入れていることはわかりました。
そして、次の部屋を開けた時、僕は全てを知りました。
その部屋には、トロフィーやら賞状やらが陳列されていました。
やはり、全てボウリング絡みのものです。
その中のひとつに、「認定証」なるものを見つけました。
それは、プロボウラーの認定証です。
「あのおじさん、プロボウラーだったのか・・・。」
そう呟くと、後ろに人の気配がしました。
「ついに、見てしまったようだな。」
振り向くと、あのおじさんでした。
「おじさんは、プロボウラーだったんですね。」
僕がそう言うと、おじさんは、「ニヤッ」と笑い、またしてもその金歯を光らせました。
「この家も、おいしい食事も、この金歯も、全てボウリングで稼いだのだ。
君もお金持ちになりたいかね?
お金持ちになりたければ、今からでも遅くない、ボウリングをしなさい。
ボウリングを始めるのに、遅いなんてことはないんだ。
そして、一生懸命ボウリングをしなさい。
そうすれば、巨万の富を手に入れることができるであろう。
これを読んでいるあなたも、ボウリングした方がよい。
毎日毎日、一生懸命ボウリングするのだ。
そうすれば、私のようにお金持ちになれるぞ。。。ニヤッ。」
おしまい